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東京地方裁判所 昭和31年(行)62号 判決

東京都中央区銀座一丁目五番地

原告

日本興業短資株式会社

右代表者代表取締役

安田朝信

右訴訟代理人弁護士

古関三郎

東京都千代田区大手町一丁目七番地

被告

東京国税局長

篠川正次

右指定代理人法務省訟務局々付検事

滝田薫

法務事務官 泉山信一郎

大蔵事務官 恩蔵章

赤沼留吉

東京都中央区銀座六丁目五番地

被告補助参加人

松岡合資会社

右代表者代表社員

松岡清次郎

右訴訟代理人弁護士

佐藤源次郎

右当事者間の昭和三十一年(行)第六二号公売処分取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件訴はこれを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が原告所有の別紙第一ないし第三目録記載の各物件(以下本件物件と称する。)につき、昭和二十九年十月十二日になした滞納処分による公売手続はこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として次のように述べた。

一、本件物件は原告の所有であるところ、訴外京橋税務署は原告に昭和二十八年度法人税等合計金三千四百三十六万八千百四十四円の滞納ありとして昭和二十八年十月二十日に、また昭和二十九年二月二十三日同じく金三千四百三十六万四百十三円の滞納ありとして本件物件全部の差押処分をなし、昭和二十九年十月十二日被告はこれを一括公売処分に付し同日訴外松岡合資会社が金四百五十一万円をもつて競落した。

二、本件物件中

(一)  宅地合計三十五坪五合四勺の価格は、東京中央税務事務所の固定資産税評価によれば金二百五十四万円弱であるが信託会社等の査定価格は更地一坪当り金三十三万六千円合計金一千百九十四万一千四百四十円で、建物の存在する場合は約金八百三十六万円弱である。

(二)  建物(建坪合計約百十坪)については、右税務事務所の評価によれば金六百十八万円弱であり、右会社等の査定価格は金五百五十四万円(訴状に金五百五十四円とあるのは誤記と認める。)である。

しかして右土地および建物はいずれも東京都の中枢である銀座に所在するもので、木造建物も堅実であるから右評価額の漸増はあつても下落傾向は考えられない。

(三)  有体動産はその種別二十八、点数百七十二に及び、原告会社が昭和二十七、八年に買い入れた際の金額が合計百十余万円であつたことからみて、右公売当時の有体動産の価格は合計約金五十万円というべく、公売当時は原告会社が使用中のものであつて毀損しているものはなかつた。

しかして、右査定価格を合計すると金千四百四十万円位となる。

三、そして右(二)の建物について公売による明渡済の場合の価格を考えてみるに、公売当初、原告会社が占有していた部分は総坪数の大半を占め、その明渡にはさしたる困難はないし、他の四名が占有していた四十四坪弱はいずれも正当権原に基かない占有であるからその明渡に支障を来すとはいえないので、前記評価額を下廻るとしても二、三割程度である。

右(三)の有体動産については、公売当時の原告会社の使用人は少数であり、原告会社の債務の関係もあつて何時でも引き渡せる状態にあつたから引渡価格が減少することは僅かに止る。

四、ところで、公売に当つては、公売続行の支障、物件の毀損散逸、物価下落の見通、公売代金の納付困難等の諸事情から再三公売処分を重ねることができないか、或は再三これを重ねたが右諸事情のためやむを得ない場合には、一回だけで公売するか、或は当初から公売評価額の引下をなす事などは考えられるところであるが、本件公売処分には右のような特殊事情は全く存在しないのみならず、却つて前述のとおり物件の性質並びに当時の情勢から本件物件の価格は上昇するとみるのが妥当であり、且つ、公売評価額以上の競落希望者が多く、代金納付も直ちになされ得ることは明らかな事情の下にあつた。

五、然るに被告は前記事情を無視して、前記のような価値ある本件物件を不当に低く評価し、しかもその低価格に接近した前記金額により、ただ一回のみの公売をもつて競落させてしまつた。

六、そこで原告は被告に対し昭和二十九年十一月十一日、右公売処分についての審査請求をなしたところ、被告は評価額は明渡済の場合のものであり使用者の現存する場合は普通評価の半額にも及ばないのが通例であるとして昭和三十一年一月十一日原告の右請求を棄却し、原告は同月十三日その旨の通知を受けた。

七、しかしながら、使用者がいる場合に明渡済評価額が下廻るのは当然ではあるか、その明渡が容易であるか、使用者がいても明渡済に近い価値があるか、或は前記のように公売手続が困難であるか等すべての具体的事情を判断して公売価格を決定しこれに基いて公売をなさなければならない。

八、然るに、被告は右処置に出でず、前記のような価値があり、且つ、明渡済に近い事情にあつてとうてい右評価額の半額を割るような公売価格を生み得ないにかかわらず、あえて本件公売処分を断行したことは、かしのある違法な行政処分であり、原告は右公売処分の取消を求めるため、本訴に及んだ。

右のように述べた。

被告指定代理人は、本案前の答弁として、主文同旨の判決を求め、その理由として、「本訴は国税徴収法第三十一条の四第二項に定める出訴期間を徒過した違法な訴であるから却下されるべきである。」と述べ、

本案につき「原告の請求はこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

原告が請求原因事実として記載の一および六は認めるが、その余は争う。本件物件の公売当時における評価額は、土地については金三百九十七万八千円、その他の什器備品については金二十九万五千円、合計金四百二十七万三千円が相当であつて、これを上廻る金四百五十一万円の価格をもつてした本件公売処分には何ら違法不当の点はない。

と述べた。

理由

昭和二十九年十一月十一日原告は、被告が同年十月十二日になした本件物件の公売処分につき、被告に対し審査の請求をなしたが、被告は昭和三十一年一月十一日右請求を棄却したことおよび原告は同月十三日被告からその旨の通知を受けたことは当事者間に争いがない。

ところで国税徴収法第三十一条の四第二項によれば、審査の請求の目的となる処分の取消を求める訴は、審査の決定の通知を受けた日より三箇月以内にこれを提起することを要する。然るに前記のとおり原告は昭和三十一年一月十三日に被告より審査の請求を棄却する旨の決定の通知を受けているところ、右審査請求の目的である公売処分の取消を求める本件訴は昭和三十一年七月十二日に提起されたものであることは本件記録により明らかであるから、右出訴期間を徒過した後の不適法な訴であつて、却下を免れない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 近藤完爾 裁判官 入山実 裁判官 秋吉稔弘)

第一目録

東京都中央区銀座一丁目五番地の二十二

一、宅地  三十一坪八合四勺

同所同番地の二十三

一、宅地  三坪七合

合計   三十五坪五合四勺

第二目録

東京都中央区銀座一丁目五番地の二十二、二十三所在

家屋番号 同町四十八番

一、鉄筋コンクリート造陸屋根四階建店舗

建坪 十三坪六合

二階 十三坪六合

三階 十三坪六合

四階 十三坪六合

地階 十八坪五合七勺

塔屋 二坪

東京都中央区銀座一丁目五番地の二十二、二十三所在

家屋番号 同町六番の四

一、木造亜鉛葺二階建事務所

建坪 十五坪

二階 十五坪

合計 百四坪九合七勺

第三目録

〈省略〉

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